皆さんこんにちは。15万本以上の爪を施術してきたネイリストでスキンケアカウンセラーの川上あいこです。ネイルサロンは不思議な空間。手を握り合ったまま過ごす約2時間。
手を握り合っているからなのか、リラックスした密室空間がそうさせるのか、秘密の内緒話しを打ち明けて下さる方がとても多い場所でもあります。
親しいのに友人関係ではない。もしかしたら来月は会わないかもしれない。
近くて遠い関係だからこそ、プライドも恥もなく自分の真っ黒な本心さえも吐き出せてしまうのかもしれない。そんなサロンワーク中のみんなの恋のお話を切り取ってお送り致します。
※許可を頂いたものだけ掲載しています。
※個人を特定できる情報が含まれないよう職業等にフィクションも織り交ぜています。ご了承ください。
いつまでも狩られたい願望
「あいこさん、ナンパ好き?」
思わず、ナンパなんてされなくなった期間を頭の中で指折り数える。
「好きか嫌いかと言われたら、嫌いですね(笑)めんどくさいです」
その一言をきっかけに、女性としての「先輩」であるお客様のお話しは続く。
若い頃はね、ナンパされたって当たり前に感じてたとこがあってね、めんどくさいなぁーなんて思いつつ、好みのタイプだったりすると飲みに行ったり連絡先交換したりしてたのね。
でももう、この年齢じゃない?この年齢のナンパってどんなか知ってる?
連絡先交換とか小賢しいことはなしにして、大体が身体の関係が当然のナンパなのよ。
「大人の関係」てやつだよね。いや、そりゃもうかなり「大人」だけどさ。そこに「駆け引き」はほとんどないわけ。狩りなのよ、狩り。ハンター!(笑)
「旦那さまにバレないんですか?ナンパ(笑)」
「バレてもいいのよ。追われただけで仕留められたわけじゃないんだから。むしろ、ちょっと困って見せることで、機嫌良さそうなのよ。単純よねぇ。」
そりゃそーだ。すでに「家族」になってしまったのなら、旦那にとって妻は「獲物」ではない。釣った魚に何とやらじゃないけれど、家族になってしまった相手を追うことはないだろう。でも、自分が手に入れた獲物を他人が欲しがると、なんだか自慢したくなる。この単純さって。
しかし、ナンパって若い人の世界にだけ存在するものだと思っていた。
「そんなことないわよ。若い子が好きな男性もいるけど、若い子はめんどくさいって男性も多いから、そういう人は同年代に声をかけたりしてくるの。」
そんなものなのだろうか?思わず、同年代にもナンパされなくなった自分を振り返る。
「もう若くないって思う時もあるのに、誘われると嬉しくなっちゃう自分に驚いちゃって。これきっと、70歳になっても80歳になっても狩りの獲物になることに喜びを感じちゃうんだと思うのよ。でもね、逃げるふりして、追いつかれない程度にハンターに追われるのって楽しくない?
ハンターもだんだんヨレヨレになってきてさ、ヨレヨレのハンターに合わせて、よぼよぼ楽しみながら逃げようと思って。」
ちなみに、狩られたい願望はあれど、獲物として仕留められる気はさらさらないそうで
「自分が獲物なんだ」と感じて逃げることに喜びを感じるらしい。いくら歳を重ねたからって、いくら結婚したからって獲物にすらならないのは寂しい。
獲物じゃなくなった瞬間に、その辺に落ちている石や葉と同じ「物体」になってしまう感覚。「女性」として狩りの対象になり続けたいってことなのであろう。
「だからといって、女はね、いくつになっても簡単に仕留められたらダメよ。安売りはダメ。自分で選んで”この人なら”て思う人に仕留められないと。
好きな人が作った罠があったらね、まるで気付かないフリをしながら、うっかりした様子で自分から罠にはまるの。喜んで罠にはまるなんて絶対ダメよ?
相手に”仕留めた!”て思わせないとダメ。これ、とっても大事なポイント!」
「結婚」という安定や幸福も手に入れつつ、他のハンターに捕獲されて料理されることもなく、獲物であることも楽しみ続ける。これを「オンナのプロ」と呼ばずして、何をオンナのプロというのであろうか。
旦那の前でも「ナンパされちゃった」感を出しつつ「あなただけに一途なのに困っちゃうオーラ」も忘れないことで、旦那の自尊心までくすぐる。プロ中のプロだ。
獲物であり続ける為には、常に美味しそうでいなければならないわけで、腐ってしまったら誰も見向きもしてくれない。決して腐らずに「熟れて美味しそうな状態」をいかに維持するのかが重要なのだろうし、その状態を何年も維持する努力が必要だ。
新鮮な果物は、瑞々しさや輝く艶があるだけで十分なわけで、何もしなくても売れるのは当たり前だけれど、そんな期間は短くてあっという間に過ぎ去ってゆく。
「腐る前の熟成期間の美味しさをどう伝えるか」これこそが「オンナ」としての手腕にかかっているんじゃなかろうか。
しかも、同性の友人達から反感を買わない程度の熟れ具合にする匙加減も必要であろう。
お金をありったけ注いだような変な若さも、無理な若作りという名の梱包も、反感を買うこと炎の如しだ。やっぱり、プロの女のなせる技だな。熟成期間の魅力放出って。
「安定を求めるから結婚もするのに、街に出た途端に獲物になりたくなるんだから、オンナってホント不思議な生き物だわ。」
オンナって怖い。オンナってすごい。餌になっておびき寄せて、自分が楽しんだら素早く逃げる。「女子力」なんてかわいらしいもんは表面上に置いておいて、そんな「オンナ力」身につけてみたいもんだ。
おわりに
ナンパされると「軽く見られた!!」なんて、心底ショックを受けていたものなのに、全くナンパされなくなってしまうことは、女として終わってしまうような寂しさも感じるなんてわがままこの上ないけれど、獲物になれない寂しさっていうのもなんとなくわかる。
それは、誰もが若い頃から感じたことのある寂しさかもしれない。
好きな人が、自分を「恋愛の対象」として見ていないと感じた時とか、合コンに行ったのに自分だけ連絡先を聞かれない時とか。
いじめや仲間外れとは違う。仲も良くて、楽しくて親しい時間を過ごしているのに「恋愛対象」としては見られていないと実感する時の、あのちょっとした寂しさ。
「あぁ、私は獲物(ターゲット)ではないのね。」としみじみ実感した時の寂しさ。
人間は一生「男」であり「女」なのだ。ハンターでいたい気持ちも、獲物でいたい気持ちも「いい歳して」なんて言わずに、できるだけ男と女を楽しませて欲しいよね。
(川上あいこ/ライター)