■好きな人に気づいてもらえたら嬉しい、じぶんの知らないじぶんのこと
じぶんでも知らなかったじぶんのことを、誰かに気づいてもらえると、なんだか嬉しい。
その誰かが ‘好きな人’ だったら、なおさら。
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手をつないで歩いたり、見つめ合ったり、笑い合ったり。
一緒に時間を過ごして、寄り添い触れ合うことで、恋する二人にはお互いに気づけることがたくさんある。
うぅ……!
そんな瞬間を分かち合うことができる彼氏がいたら、どれだけ幸せだろう!
そしてその彼氏に、じぶんの知らない一面を見つけてもらえたら、照れつつも、どんなに嬉しいだろう!
そんな経験をするためだけにでも、彼氏を作る価値ってあるんじゃないだろうか?
*
だけど別に。
できなかったらできなかったで……と強がりを言いたくもなる。
だけどやっぱり。
彼氏がいる女子を心底うらやましく思う時があるのだ……!!!
それは……
■だから彼氏がほしい……! 彼氏持ち女子がうらやましい理由
「福毛(ふくげ)」ってあるじゃないですか?
体のどこかに一本、ひょろりと生えたりする、ふわぁ〜と長くて白い毛。
「福毛は幸せの毛。縁起が悪いから抜くのはNG」
「福毛が生えるところはカラダの悪いところのツボ。押すと痛い!」
など諸説あるアノ福毛。
私も、腕にスーッと一本の福毛があって。
中学生の頃にその存在に気づいてからは、たまに探し当てては「おぉ長い……」などと目を細め、眺めたものです。
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それが二十歳も過ぎたある日。
おへその横に新たにもう一本の福毛を発見し、約10年ぶりの”ニュー福毛”に沸いた私は、その興奮を同僚女子に話したのだった。
すると、
「え? 私もこの前、太ももの裏にあるの見つけたよ」
なんてそっけなくクールに返されてしまい……、
「へ!? でも太ももの裏って……どうやって見つけたの? ま、まさか」
そう動揺しつつ、恐る恐る聞き返すと、
「彼氏が見つけた」
とさらり。
きやーーー!!!なんて幸せ者なんだ!!!
福毛を彼氏に見つけてもらえるなんてーッ!!!!!
眩しかった。私とは雲泥の差でリアルに充実しているキラキラ女子に目がチカチカした。
そして、そんな恋人たちの甘美な光景を想像するだけで、萌え殻になりそうだった。
*
……と。
じぶんでは気づけないことを、彼氏に見つけてもらえる女子を心ッ底!うらやましく思ったわけです。
■見つけてほしい、死角の福毛!
だから、やっぱり彼氏ほしい!
プレミアムな《死角の福毛》を見つけられたい!
だって恋人がいない者は《死角の福毛》なんて、じぶんでは一生見つけられないわけで……。
イチャイチャ彼氏としながら、
彼氏「あれ? こんなところに福毛が」
私「ウソ。やだ。知らなかったーぁ」
彼氏「僕のカワいい彼女の福毛さん♪」
私「痛ッ! 引っぱらないでよ、もーう」
……とか、やりたい。
世界中の人からバカにされても、やりたい。
■そこは気づいてほしくなかった……女子の恥部
だけど気づいてほしくないこともある。
少女マンガから抜け出してきたような王子系の先輩バイト男子が、ある日の朝礼終わりに私に微笑み掛けているのでナニゴトかと思ったら、
「おーしまさん、汗←」
と指差しジェスチャーで、
「おーしまさん、こめかみに汗ひと筋タラー。だよ、走って来たの? 必死だね。ワラ」
……状態であることを教えてくれたのだった。
そこは……見なかったことにしてほしかった。
男子の前ではいつだって、可愛くおしとやかな女子でいさせてほしいっ。のだ。
■幸せを知るために大切なこと……それは他者を知ること
とはいえ、なんにも気づいてもらえずに無関心で放っておかれるよりは、汗でも鼻毛でも歯についた青ノリでも(?)誰かに見つけてもらえた方がずっとイイのかもしれない。
だって最近ではもう、旧知の福毛たちをじぶんでさえ見つけられなくなってしまっているのだ。
どこへいってしまったのだろう……我が心の友・福毛よ(涙)。
あれ? これってもしかして……。
福毛にはこんな説もあるという。
「何か願いごとがある時に生えてきて、その願いが叶うと抜ける」
いやいやいや! 「福毛を見つけてくれる彼氏がほしい」っていう私の切実な願いごと、まだ全然叶ってないんですけど!?
知らぬ間に抜け……ちゃ……った?
*
ということはつまり。
じぶんの知らないじぶんを知りたかったら?
あてにならない「福毛。されど、ただの毛」なんぞに願いを託すより、じぶんの知らない一面を見つけてもらうためにまずは、じぶんではない誰か他者に目を向け、その人のことを知ろうとする姿勢が大切なのかもしれない。
そうして、その相手のすてきな部分をより深く知っていく先に恋が生まれ、その結果、「幸せの福毛」も見つけてもらうことがきっと……できるハズ!? だろうから。(大島智衣/エッセイ・コラムニスト)