皆さんこんにちは。15万本以上の爪を施術してきたネイリストでスキンケアカウンセラーの川上あいこです。ネイルサロンは不思議な空間。手を握り合ったまま過ごす約2時間。
手を握り合っているからなのか、リラックスした密室空間がそうさせるのか、秘密の内緒話しを打ち明けて下さる方がとても多い場所でもあります。
親しいのに友人関係ではない。もしかしたら来月は会わないかもしれない。
近くて遠い関係だからこそ、プライドも恥もなく自分の真っ黒な本心さえも吐き出せてしまうのかもしれない。そんなサロンワーク中のみんなの恋のお話を切り取ってお送り致します。
※許可を頂いたものだけ掲載しています。
※個人を特定できる情報が含まれないよう職業等にフィクションも織り交ぜています。ご了承ください。
心奥底の暗闇
SNSも増えて「公開つぶやき」が一般的になったとはいえ、人の心の奥底に潜む本当に暗い部分というは公開できる場所にはないのかもしれない。
「あいこさん、デスノート知ってる?」
アニメ好きじゃないのに珍しいな、なんて思いながら、あまり詳しくない私も記憶を辿って答える。
「なんとなくは知ってますよ。名前書いた人が死んじゃうノートでしたっけ?」
「そうそう。そうなんだけどね。私、デスノート持ってるんだ。」
「なんですかそれ(笑)」
一時期、東原あきさんのブログも「デスノートだ」と騒がれていたことが頭をかすめつつ、こんなに身近にデスノートを持っている人がいたとは!ありえないと思いつつも少しわくわくしてしまう。デスノート、どんなデスノートなんですか?
わくわく感を隠しきれずに思わず聞いてしまったのだけれど「このデスノートの存在は知らなかったことにしよう。うん。そうしよう。」そう覚悟するようなノートだった。
「あのね、昔から日記を書いてるのね。日記って夜に書くからなのか、内容濃いんだよね。
振られたり、浮気された日だったり、嫌な相手とぶつかった日だったりするとさ、相手の不幸を願ってる自分がいるわけ。
普段から、相手の不幸を願ってるわけじゃないんだよ?口に出すこともないし。」
こんな話し友達にはできないし、あいこさんだから言うけど・・・とお客様は話を続ける。
確かにね。友達には知られたくない存在だよね、そのノート。
「不満を口に出したら愚痴になっちゃうから、なんか口にはしたくないんだよね。でも、ただ思ってるだけじゃ、どんどん溜まってくじゃない?どうしたもんかと思っていたら、不満やストレスって紙に書くといいって聞いて。だから、日記に書くようになっちゃったんだよね。そしたらね、日記に書いた人がどんどん不幸になっていくことに気付いたの!」
話しながら目がキラキラしている。自分のことが書かれていないかちょっと不安になりつつ続けて耳を傾ける。
「さすがに死んだりはしないんだけど、日記に名前書いた人は怪我したり出世できなかったり離婚したりするの。名前書いた人みんなだよ?元彼なんか家が火事になっちゃって・・・ふふふ。」
ふふふ?なにその「ふふふ」。怖い。
「私を裏切ったり、悲しませたりした人ってみんな不幸になっていくんだよね。お気の毒。」
絶対にお気の毒なんて思っていないよね?と心底思いつつ「今度、そのデスノート見せてください。」と約束して、彼女の暗い部分はもう見ないことにした。
デスノート。心の奥底を書いた暗い暗いノート。その話し、絶対に友人にはしない方がいい。
おわりに
好きの反対語は「無関心」だなんてよく聞くけれど、それは合っていると思う。どんなに嫌悪している相手でも、その相手に関心があるということは「興味」を持っているからだ。
不満や嫌悪だって「興味」の一種で、興味がない相手なら、怒りも湧かないだろう。
合わない相手というのは必ずいるものだし、恋愛に於いては「自由恋愛」なわけで、特に契約もなく心変りも仕方のないことなのに、別れても尚、日々日記に元彼のことや彼を奪った女のことを書き連ねるというのは、恋が終わってしまったことが悔しくて、納得できなくて、自分では消化できない想いがあるからなのだろうと理解はできる。
ムカつくやつはムカつくし、理解はできるけれど、デスノートとなってくると話は少し変わってくると思うのだ。
揉めてなお、もしくは別れてなお、しばらくの期間、相手の動向について“情報”としてアンテナを立てているからこそ「相手のちょっとした不幸」を知ることができるわけで。
「あの人どうしてる?」そう聞かなければ入ってこない情報も多いだろうし、何となく耳に入ってきた情報だとしても、興味のなくなった相手なら他の雑多にかき消される程度の情報でしかない。
毎日生きていれば色んなことが起こるのは当たり前のことなのに、相手のちょっとした不幸を耳にして「ほらね、不幸になった。」て思うのは、どれほど相手に執着していなければ難しいことか。
相手の幸せやラッキーは見ざる言わざる聞かざる。お口はミッフィーお耳はギョウザ状態で、相手のアンラッキーだけにアンテナを立てる。
「ほらね。私を裏切るからよ。」そう思いながら過ごす恋の終わりってどうよ?
相手の人生にはもう自分の存在なんてないかもしれないのに、相手を日々思って、恨んでみたり相手のちょっとした情報を仕入れて、ざまーみろと思ったり。相手の不格好を笑ったり。
いや、少なからず、浮気でもされようものなら「ちん〇モゲロ!!」と思わなくもないのが本心だけれど(むしろ、もいでやろうかとも思うけれど)不幸にばかり聞き耳を立てながら過ごすなんて、なんと悲しいデスノートなんだろうか。
恋を無くすのは辛いし痛い。恋人だけでなくとも人の「裏切り」は辛い。その辛さを、自分で受け止めることができなくて、消化することもできなくて、生まれてしまう「デスノート」。
「諸行無常」の世の中で、全てを受け止めることができたらきっとデスノートは生まれてこない。
愚痴って、聞かされる方は確かに疲れる。だけれど、友人の心が乗り越えられないような辛さに直面している時は、やっぱり聞いてあげて欲しい。乗り越えられるその時まで、なんとなく付き合ってあげて欲しい。デスノートを抱える女性がこれ以上増えないように。
せめて私だけでも施術中に話しを聞こう、聞いてあげよう。そう決心させるノートの告白だった。私、書かれていませんように。
(川上あいこ/ライター)