ネイルサロンは不思議な空間。
◇お母さん彼女にならない
お友だちと2人で来店される方も多いのがネイルサロン。気の合う友人同士だからといって、ネイルの趣味まで同じというわけでもない。それは、男性の好みも同じだし食事の好き嫌いも同じだ。
ある日の午後、連れ立ったユミさん(仮名)とカエリさん(仮名)。
ユミさんとカエリさんの共通の友人らしい男性とも一緒にご来店で、どうも、ユミさんの失恋を慰める会のあとにおいでになったみたいだ。
「だからね、それが男性なんだってば」姉御風な話し方でカエリさんが諭していた。
「人前で手を繋ぐなんて、そんなの嫌がるに決まってるじゃん。普通だよ普通。」
そう諭されて、泣きそうなユミさんは「そうかなぁ?」と答える。
「だって手を繋いで歩きたいじゃん。誰もいない道なのに手をほどかれたんだよ!」
同意を求めたくて仕方ないユミさんの声が大きくなる。
「あーそういうオトコ、昔付き合った。もっとさ、男の気持ち考えないと、次の彼氏できないよ?」とカエリさん。
そんな二人を、友人男性は何も言わずに見ている。
「男ってさ、照れ屋なわけ。もう子供じゃないんだからわかるっしょ?それが、男だよ」
カエリさんの姉御口調もヒートアップして、なんだか巻き舌風になってきた。
「ケンジもさ、なんか言ってやんなよ。この子甘えすぎじゃない?もう大人なんだから、もっと男をわかるべきだよね」
黙って考え込んでいるユミさんを横目に、ケンジという名の男性に話しかけたカエリさん。でも、得意げなその表情は、どんどん曇っていくことになった。
「おれはさ、手を繋ぐの好きだし、好きな子となら何回でも手繋ぎたいよ」優しい声でケンジさんが話し出した。
「男をわかるのも大事だけどさ、一人一人の個性は違うからさ。ユミは手を繋いで歩きたかったんだろ?」
「うん。手も繋ぎたいし腕も組みたいかな」ユミさんが小さな声で答える。
「えーそれはやっぱうざいっしょ。男からしたらうざいよー」カエリさんが納得いかない顔でまた一言浴びせた。
「人によるって。ユミはさ、ユミと同じように手を繋ぐのが好きなタイプと付き合えばいいんだよ。相手に合わせる必要ないし」ケンジさんがユミさんを見る。
今までの道すがらも、ユミさんは「うざい」だの「めんどくさい」だの言われてきたのかもしれない。自信なさげに「私が男心わからなすぎなんだよね」とため息をついた。
「わかんないだろ。男心どころか、他人の考えなんてわかんないっしょ。そんな、なんでもわかる態度で“あなたのことはお見通しよ”て顔されてもさ。母親じゃないんだからさ」
大笑いしかけてケンジさんが「やばっ」という顔をした。
◇おわりに
私たち女性は、ついつい相手の心を知ろうとしてしまうし「理解ある女がモテる」と考えがちだけれど、なんでもかんでも理解されたら、やっぱりちょっとお母さん的立場になってしまうのかもしれない。
想いをぶつけ合うことってなかなか大変なことだけれど、なんでも知っている風を装われるよりは「こうしたいよ」と伝えて貰えるほうが「かわいげ」を感じるのだろうか。
「ユミはさ、ケンジみたいな男とつきあえば?そいう男もいるっしょ。私も昔いたわー、そういえば。そういう元カレ」
カエリさんの元カレもいろんなタイプがいたんだな、と黙って思いながら
なんでもかんでも「わかるわかる」の彼女より「どうして?」て聞ける女性のほうがかわいいな、と思ってしまう。
どうして?なぜ?それはなんで?という質問って、裏を返せば「あなたのことを知りたいよ」というサインなわけで「元カレにそのタイプいたわ」と返されるよりは、ずっと気分がいいはず。
姉御肌と知ったかぶりはちょっと違う。他人の気持ちの全てを知るなんて無理だし、男性は2パターン程度しかいないわけでもない。
もし今、無理をして、彼に「物わかりのいい女」を演じている人がいるならば、物わかりなん良くなくていいから「どうして?」て問いかけてみて欲しいな、と思う。
お母さん的彼女になってしまう前にね。ぜひ。(川上あいこ/ライター)
【あのコの恋愛事情】